情報ひつじ

初サークル参加です!ラミー系カードゲームの新作「OVERHAUL」を販売します! https://twitter.com/YyBvatJB19V1LXz

[ボードゲーム作るには] 9. ビジュアルテーマを定めよう
2023/12/9 1:41
ブログ

ビジュアルテーマを定めよう

(ビジュアル)テーマとはボードゲームの用語や見た目をどうまとめるかを表します。今回の記事と次回の記事で、テーマをどのように定めていけばよいかを語ります。今回はテーマの大枠、どんな題材を選択すべきかを解説します。次回は具体的なトーン・マナー、フォントなどをどう決定していくべきかを解説します。

 

メカニクス主導ならメカニクスを主役にテーマを考える

今回の記事はゲームコンセプトがメカニクス主導である場合のテーマの決め方について解説します。以前の記事でゲームコンセプトはメカニクス主導のものとテーマ主導のものがある、という話をしました。テーマ主導のコンセプトの場合はどんな題材のテーマにするか後から悩むことはないでしょう。ゲームとして表現したいテーマが思い浮かぶ所からゲーム制作がスタートしているからです。一方でメカニクス主導のコンセプトの場合、つまりどんなルールのゲームを作りたいか、という点から制作活動がスタートしている場合は、どのようなテーマを設定すべきか迷うかもしれません。この記事ではそのような状況で、どんな風にテーマを決めていけばいいか1つの意見を述べたいと思います。

 

メカニクス主導のコンセプトの場合は、ゲームのルールをどう補足できるか、という観点でテーマを検討すると良いと考えています。メカニクス主導のコンセプト、という事は、ゲーム制作を通して表現したい事の核はゲームのルールにあるわけです。それならば設定することでルールの欠点を補うようなテーマを選ぶのが良いでしょう。例えばユーザがゲームのルールを理解しやすくなるようなテーマを設定したり、ゲームのプレイ感に沿ったテーマを設定する、といった具合です。

 

ルールがテーマから伝わるゲームはそれだけで魅力的

ゲームのルールがテーマから伝わる、という事はそのゲームの魅力をぐっと引き立てます。ゲームというのは実際に遊んでもらわないとその魅力が伝わりにくい媒体です。ボードゲームのルールだけを見てもそのゲームの面白さというのはなかなか伝わってきません。しかしルールにあった適切なテーマ設定がされれば、ゲームの面白さをまだ遊んだ事のないユーザに伝えやすくなります。私は前回のゲームマーケット(2023春)が一般参加者としても初参加だったのですが、ルールが伝わる事の重要さを実感しました。私は能動的に参加した、というより友人に連れられて参加したので、事前にどんなゲームが出展されるのか全く調べていませんでした。会場で販売されているゲームを見て、そのアートのレベルの高さに圧倒されたのですが1つ困ったことがありました。それは販売されているボードゲームが、どんなルールのゲームなのかまったく分からない、ということです。きっと出展者の人に聞けば熱心に教えてくれると思うのですが、購入するつもりがあまりないので質問するのも気まずく感じました。しかし遠目に見るだけではどんな題材のゲームなのかはわかってもどんな内容のゲームなのか全くわかりません。しかしサークル「ゼロハウス」さんが発売していた「マドリイズム」というゲームだけは違いました。このゲームはカードに家の間取りの一部が印刷されています。そのカードを中央の場に出していって家の間取りを作っていきます。各プレイヤーはゲーム開始時に得点計算用のカードを渡され、ゲームの最後に家の間取りをそのカードの得点計算にしたがって評価し、もっとも高い点数のプレイヤーが勝利します。このゲームの優れている所はルールの理解しやすさです。間取りが印刷されたカードが場にタイルのように置かれている様子を見れば、すぐに「理想の家の間取りを競うゲーム」なのだと理解できます。そして3分程度説明を聞けばどんなルールでどんな駆け引きが発生するゲームなのか理解できます。私はこのゲームをすぐに購入しました。ゲームマーケットの会場ではきっと「マドリイズム」と同じぐらい面白いゲームがたくさん販売されていたのだと思います。しかし事前調査を何もしなかった自分にとっては、どんなゲームなのか見た目ですぐに伝わった「マドリイズム」が一番魅力的なゲームだと感じたのです。

 

適切なテーマ設定はユーザがルールを理解するのを助けます。例としてプエルトリコ、というゲームを挙げます。プエルトリコは拡大再生産のメカニクスを取り入れた重量級のボードゲームです。非常にたくさんのリソースを相互に変換していき、勝利点を増やしていきます。このゲームは農園の経営をテーマにしています。畑に労働者を配置して作物を育て、それを生産設備で商品に加工し船で出荷して勝利点を得る、といった具合です。もしこのゲームがテーマの無いゲームだとしたら、今の説明は「リソースAにリソースBを配置してリソースCを生産し、それをリソースDとリソースEを使って勝利点に変換する」といった具合になります。これではだれも理解できないでしょう。テーマとルールが適切に関連づけられているからこそ「畑に労働者を配置して~」という直感的な説明を行うことができるのです。

 

ビジュアルテーマを定める思考過程の具体的

私自身がボードゲーム「OVERHAUL」を作成する際、どのような思考過程でテーマを定めていったか紹介します。このゲームは完全にメカニクス主導のコンセプトで作り始めていました。はじめはどのようなビジュアルテーマを採用するか全く想定がありませんでした。テストプレイを重ねてルールを確定させた後にテーマの検討を始めました。テーマを決める際は、ゲームルールに残った問題を和らげるように機能するテーマを選択したいと考えていました。どうしてもゲームルール側の修正で解消しきれなかった問題があり、テーマを使ってそれに対処したいということです。

 

「OVERHAUL」においてルール側の修正で解消しきれなかった問題は、ルールに伝わりにくい点が2点ある、ということです。1点目は「チャレンジ宣言してから手札のカードを一気に出す。大富豪のように少しずつ出すことはできない」という点、2点目は「手札のカードは順番を入れ替えてはいけないが、場のカードは手札に自由に差し込んだり外したりしてよい」という点です。これらのルールはゲームコンセプトの「数字を揃えて組み合わせるパズル的な面白さ」を実現するために必須のルールでした。説明書でも重点的に説明してはいるのですが、他のゲームには無いルールなのでどうしても伝わりにくさがありました。テーマ検討の初期では先述の問題を踏まえ、「暗号解読」をテーマにしようと考えていました。「暗号解読」がテーマならば、手札のカードが暗号の文字列で、場のカードがヒントである、という見立てで、2点目の伝わりにくさ「手札のカードは順番を入れ替えてはいけないが~」を説明できます。しかし「暗号解読」では1点目の「チャレンジ宣言してから手札のカードを一気に出す~」という伝わりにくさへの解消にはなっていないと感じていました。少しずつ暗号を解いていってはいけない理由はないですし、そもそも手札からカードを取り除いていく、という動きの感覚と、暗号が解けたか確認する、という感覚が一致しないように思えました。チャレンジ宣言後の「カードを取り除き手札の残りのカードを詰める、カードを取り除き手札の残りのカードを詰める」と繰り返す動きが機械を動作させる感覚に似ていると感じたので、機械関連のテーマを中心に案を検討しました。その検討の中で「機械式時計の修理」というテーマが思い浮かびました。手札のカードで修理対象の時計を表します。場のカードは修理に使う歯車であり、時計に歯車を差し込んだり外したりして修理していきます。そして、修理できたと思ったらチャレンジ宣言し、手札のカードを全て取り除けるか確認します。これは時計の動作確認に当たります。このように考えるとテーマとゲームのルールが対応付けられるようになり、ルールを理解するのにテーマが役に立ってくれるようになります。このことから、このゲームには「機械式時計の修理」がテーマとして適していると判断しました。

 

テーマによって生まれる魅力

まれな現象だとは思うのですが、ゲームに元々ない魅力がテーマ設定によって生まれるケースもあります。ゲーム制作中にそんな現象を体験したので紹介します。私が今回制作したゲームでは、各プレイヤーがゲーム中1度だけ実行できるアクションがあります。それは「場からカードを1枚選んで取得する代わりに、山札の上から3枚取得する」というものです。普通1ターンに1枚しか取得できないカードを3枚も取得できるので強力なアクションになります。しかしラウンドを跨いでも再度実行できるようにならないアクションなので、使い時には気を付ける必要があります。このアクションを実行しても有効なカードを引けないことがあります。貴重なアクションを消費してしまって無駄になるわけですから愉快な経験ではありません。しかしこれは「そういうもの」と考えていて特に何か修正を加える必要性は感じていませんでした。テストプレイの段階ではこのアクションを、各プレイヤーに1枚だけ配るチップを払うことで実行できる形にしていました。あるとき友人の一人がこのチップを払う時「俺は花京院の魂を賭けるぜ!」と言い出したのです。有名なジョジョのセリフですね(ちょっと文面は違いますが)。これはすごい発明でした。アクション権を浪費するのが楽しくなったのです。例え有効なカードが引けなくても「魂を賭けたのに!」「花京院が死んだ!」といって盛り上がりますし、適切なタイミングで使えなくても「そんな所に花京院の魂を使うのかwww」といって笑いあえます。元々辛いだけの経験だったものがゲームを盛り上げる要素に変わったのです。初作品でパロディをテーマにするのはどうだろうと思ったのでテーマとして採用はしませんでしたが、今でも惜しいことをしたと思っています。