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Terramara/テラマラ

¥8,500

ゲーム概要

  • 10年ぶりの純正アッキトッカによるゲーマーズゲーム
  • 将来のラウンドのアクションスペースを活用するワーカープレイスメント
  • 非対称能力を与えるキャラクターカードは表裏をひっくり返すことで成長する
プレイ人数 2〜4人 プレイ時間120〜120分
対象年齢12歳〜 価格8,500円
発売時期2019秋 予約
ゲームデザインAcchittocca, Flaminia Brasini, Virginio Gigli, Stefano Luperto, Antonio Tinto イラスト・DTPMichael Menzel

ゲーム詳細



Terramara/テラマラは紀元前15世紀のイタリア北部を舞台にしたワーカープレイスメントゲームだ。
イタリアのゲーム制作集団アッキトッカによる10年ぶりの新作として
オランダのQuined Gamesから発売された。

アッキトッカ名義での作品は10年前の「エジツィア」以来だが、メンバーのギグリとブラジーニは
「ロレンツォ・イル・マニーフィコ」の製作者に名を連ねており、
この両名は「コインブラ」のデザイナーコンビでもあるため、
ドミニオン世代である自分にも馴染みがある。
しかしながら自分には純正アッキトッカ名義でのゲームのプレイ経験がないため、
「名前だけ知ってるあの伝説のバンドが再結成!」なノリで今作を捉えている。

 ちなみにこのゲームはQuined Gamesのマスタープリントエディションの25作目でもある。
このマスタープリントエディションは
なんかよさげなデザイナーのゲーマーズゲームを集めたシリーズなのだが、
オリジナルモノと他社メーカーの再販モノがごっちゃになっていて、
このゲームは分類としてはオリジナルモノの方になる。


ゲームは王道的なワーカープレイスメントで、全5ラウンドでの獲得勝利点を競う。
4人プレイの場合、各ラウンドのアクションスペースが4個、
全ラウンドで使用可能な本拠地アクションスペースが5個あるため、
第1ラウンドで使用できるアクションスペースの数は9個だ。

それに対してプレイヤーはワーカーとして4個の探索者コマと1個の族長コマを持っている。
つまり4人分でワーカーは20個。明らかにアクションスペースが足りない……!

しかし! このゲームでは2つのギミックでこの疑問に答えている。

1つ目のギミックはワーカーの後乗りだ。
このゲームでは1つのアクションスペースに2人までのワーカーを配置できる。

1人目のワーカーはノーコストでアクションスペースに配置できるが、
2人目のワーカーは配置の条件として、
1人目のワーカーの持ち主より高い「軍事力」を持たなければならず、
さらにコストとして「軍事力」を1つ支払わなければならない。

「軍事力」は獲得が難しいリソースなので、
「軍事力」を支払ってでも実行しなければならないアクションなのかを
よくよく考える必要がある。
また、2種のワーカーのうち族長は、
こうした「軍事力」の縛りなしに後乗りできる強力なワーカーなので、要所で使いたい。


説明書記載のワーカー配置例。なんかごちゃごちゃ書いてあるがセオリーの組み合わせなので理解は難しくない。

2つ目のギミックは将来のラウンドのアクションスペースの使用だ。
先程、第1ラウンドで使用できるアクションスペースは9個と言ったな。あれはウソだ。

実は最初から5ラウンドほとんどのアクションスペースを使用できるため、
使用できるアクションスペースは実に29個もある。
それだけあるとどのアクションスペースを使うか迷ってしまいそうなものだが、
将来ラウンドのアクションスペースには
「そのラウンドの終了時にならないとワーカーが戻ってこない」という
強烈なデメリットがあるため、実効的な選択肢はさほど多くはない。

ただ、ラウンド終盤にもなると、少ないリソースを得るよりは遠いラウンドでも
多くのリソースを得たい局面もある。
なにせこのゲーム、アクションスペースが少ないのだ。

その結果、プレイヤーの手番数はそれぞれ異なる場合がある。
遠くにワーカーを派遣すると自分だけ手番が少なくて手持ち無沙汰になる
「アグリコラ」あるあるを久々に味わえるぞ!

このギミックはある種の前借り、借金のようなものだが、
UIが統一されている上にリスク&リターンが明瞭で、とても合理的な仕組みだ。
王道的なワーカープレイスメントは小さくまとまりがちな面もあるが、
このような飛び道具を持ち込んでダイナミズムを両立させた手腕はさすがと言えるだろう。

ちなみに、各ラウンドの終了時には現在のラウンドを構成するタイルが裏返り、
アクションスペースが封鎖される。
一応、十字路アクションスペースという追加のアクションスペースが用意されるのだが、
基本的にはゲームが進むにつれ、アクションの選択肢は減る。
ゲームを通してアクション数が緻密にコントロールされているため、
引き締まったプレイ感が続く印象だ。


さて、この一風変わったワーカープレイスメントのシステムがゲームの根幹だとするならば、
循環する血流として「襲撃」アクションの存在がある。
「襲撃」アクションはラウンド中1回しか行うことができない特殊なアクションで、
軍事力を1つ支払う必要があるが、他プレイヤー全員のリソースを一方的に奪うことができる。

「襲撃」を行った場合、襲撃者はその他のプレイヤーのリソースを「X分の1個」奪うことができる。
Xは襲撃者と防御プレイヤーの軍事力(正確にはパワー)によって決まり、
襲撃者の軍事力が高ければXは小さくなり、防御側の軍事力が高ければXは大きくなる。
端数は切り捨てになるので、持っているリソースが少なければ
結果としてリソースが奪われない場合もある。
間接的な防御が可能ということだ。

この「襲撃」は、全体を構成する濃厚なユーロ感に突如放り込まれた直接的なインタラクションで、
強烈なスパイスとして作用している。
思えば「コインブラ」でも他人のリソースを奪うカードがごく少数用意されていたが、
あれがアッキトッカの味つけなのかもしれない。
全然関係ないがドーラの「バレッタ」にも似たような要素があった。

ともあれ、この「襲撃」の存在で、
プレイヤーは「襲撃」を睨んだアクション選択を常に余儀なくされる。
例えば基本ルールの場合、ゲーム開始時のプレイヤーの所持リソースは4個で、
襲撃の効果は「5分の1のリソースを奪う」状態だ。

この状態でAがリソース3個を獲得し、Bがリソース3個を獲得し、Cがリソース2個を獲得する。
すると、Dは襲撃を行うことで各プレイヤーからリソースを1つずつ奪うことができる。

結果、こんな感じになる。

A:リソース6個
B:リソース6個
C:リソース5個
D:リソース7個、軍事力-1

軍事力1を引き換えにDはリソース面で若干の優位に立てる。
ワーカープレイスメントの常として後手番のプレイヤーに残されたアクションスペースは貧弱なので、
かなり効率的なアクションとも言える。

「となると、初手でリソースを取りに行くのは悪手ではないのか?」
「いや、全員がリソースを取らなければ『襲撃』も弱まるので自分だけなら大丈夫じゃないか?」
「いっそ『襲撃』される前に自分が『襲撃』するのは……」
と言ったシミュレーションがそれぞれの脳内で始まる。

ゲーム開始からこんな殺伐としたやり取りが起きるところからも分かる通り、
いつ誰が「襲撃」アクションを実行するのかがラウンドの焦点となる。
これは「ネイションズ」の戦争と似たニュアンスがあって、
誰かが実行してくれれば話が早いのだが、相応にコストもかかるので実行しづらく、
また軍事力の乏しいプレイヤーが
防御的に「襲撃」を行う場合もある(1ラウンドに1回しか行えないので)。

ゲームのベースは極めてオーソドックスな作りだが、
この「襲撃」を軸としたプレイ感はなかなかユニークだ。
ゲーム中やたらと山賊じみた発言が多くなりがちなゲームだが、
まあ紀元前1500年のイタリアだからそれも仕方ないね!


さて、「襲撃」の存在を意識するため、自然とプレイヤーは溜め込んだリソースを放出することになる。
リソースは主にアーティファクトの作成コストとして消費される。

ただ、リソースには原材料と加工品の2種があり、
アーティファクトのコストとして使えるのは基本的には加工品だけだ。
加工品を作るためには一手間が必要なので、
加工する手段を確保しないまま原材料だけをガッツリと集めると「襲撃」の餌食となりかねない。

アーティファクトは作成したプレイヤーに様々な特殊能力と勝利点を与える。
まあ、この手のゲームによくある建物みたいなやつを想像して貰えばいい。

基本的にアーティファクトはコストとして同種の加工品を複数必要とするのだが、
ゲームが進むにつれて要求コストが増大するので、「襲撃」の脅威度も上昇する。
アーティファクトの中には、アーティファクトの製作コストを割引する効果を持つものもあるのだが、
この効果の恩恵は他のゲーム以上にありがたい。

他にも「『1ラウンドに1回、リソースを1個払うことで1移動力を獲得』を3回実行可能」
なアーティファクトがあって、これ自体は字面で見る分には普通の効果なのだが、
「襲撃」の絡みからリソース大量獲得の後に防御的に起動するなんて使い道もあって、
これはちょっと唸った。
デザイナーの小技が随所に光っていて、
芸術点とか難度ではなく完成度で稼ぎに来るタイプのゲームだ。

アーティファクトはボード下部に描かれているポー川の脇に並べられる。
見た目は「スルージエイジス」などでよくある
ダッチオークション風のそれだがコストの嵩増しはない。


アーティファクトの獲得例。なんかズラズラっと書いてあるが要はカヌーの進んだ場所までのアーティファクトを獲得できる。

基本ルールの場合、ゲーム開始時点ではこのうち左側3枚だけが獲得対象となる。
ただ、ゲーム中、「文化度」を上げることでカヌーを進め、獲得の選択肢を広げることができる。
「文化度」が4以上になるとアーティファクトの予約も(1枚だけ)可能だ。

なので、「文化度」が低いといつまでも川下で人のおこぼれを待つしかないのだ。
とは言え、ラウンドが進むと古いアーティファクトは適度に取り除かれるので停滞感はさほどない。


あとは、「軍事力」「文化度」と並んで重要なリソースに「移動力」があるのだが、
まあ、ここはそれほどひねりはないのでちょっと割愛。
ただ、ゲームで勝利するために重要な得点源である前哨基地を活用するには
「移動力」が必要なので、やはりこれも重要な要素だ。


あと、ワーカープレイスメントのゲームとして触れておきたいのはスタートプレイヤー周りの仕様だ。
最初に言っておくと、このゲームはスタートプレイヤーから時計回りでプレイする。
この時点で既に渋面を浮かべているゲーマー諸君は、ちょっと我慢して先を読んで欲しい。

次のラウンドのスタートプレイヤーはスタートプレイヤーアクションを実行したプレイヤーが務める。
まあ、ここまではよくあるやつだ。

で、その際に次のラウンドの手番順に応じてボーナスが与えられる。
スタートプレイヤーは1移動力、おこぼれが嬉しい2番手にはなにもなし、
3番手には1文化度、4番手には2軍事力と言った塩梅だ。

知っている人ならこれは「ファーストクラス」の援用だと気づくだろう。
ただ、「ファーストクラス」ではラウンド終了時に与えられていたこれらのボーナスが、
このゲームではスタートプレイヤーアクションを踏んだ瞬間に即座に発生する。

ここがちょっと不思議に思う点でもあるのだが、結果としてどうなるかというと、
4番手が手番外で2軍事力を得るので、4番手のワーカーが配置されていた
アクションスペースを踏みに行こうと思っていたプレイヤーは突如として計画が狂うことがある。
仕様としてラウンド跨ぎでボーナスを与えることもできたと思うんだけど、
処理を忘れそうな気もするし、ここはハプニング性を重視したのかな。


とまあ、こんな感じで色々と語れるぐらいには見どころの多いゲームだ。
実は8割がた書いた紹介テキストが1回吹っ飛んだので、
ここでは内容をかなりコンパクトにお伝えしている。
うだうだ語れる材料はまだまだあるのだがそれは遊んでみてのお楽しみということで。


ゲーム全体としては、老練な、質実剛健な印象を受ける。
ギグリやブラジーニの関係している「グランドオーストリアホテル」「ロレンツォ」「コインブラ」を
並べてみるとコンボ性があり、華やかさや派手さの目立つ作風にも思えるが、
このゲームはそれらとは違って相当に固い。

一貫してゆるさのない、よく言えば緊張感があり、悪く言えばリラックスできない展開が続くので、
人によっては疲労感を覚えやすいゲームかもしれない。
これは2000年代のしっとり重厚なゲーマーズゲームの作風で、
この辺があるいはアッキトッカらしさなのかもしれない。


ただ、上級ルールのキャラクターを採用することで
2010年代ならではの華やかさが生まれる印象もある。
キャラクターはいわゆる非対称能力で、各プレイヤーにかなり派手な追加能力をもたらす。



キャラクターはプレイングの方向性を積極的に方向づける能力を持っているので、
この手のゲーマーズゲームに慣れている人なら初回から選択してもいいかもしれない。
キャラクターと同時に初期リソースのドラフトを行うのだが、
この選択方法がまんま「コインブラ」なのでニンマリする。

また、キャラクターには裏表があり、ラウンド開始時に裏返すことで言わば成長し、
全く異なる別種の能力を獲得する。
基本的にキャラクターはリソースを獲得した場合に追加でリソースが得られるタイプの能力が多いが、
裏返すことで勝利点をもたらすタイプの能力に変わるので、
どのラウンドでキャラクターを裏返すかも重要なチョイスになってくるだろう。


多種のキャラクター、そしてモジュラーボードでリプレイ性は高い。
今年のエッセン新作の中でも特にこれまでのゲーマーズゲームに親しんだ人向けのサービス作だ。
ここまでの紹介でなにか一つでもひっかかるフックがあるなら遊ぶ価値は大いにあるんじゃないかな。

ゲーム体験

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