BLUE GUILD

強く生きる、がモットー。自作ボードゲームを企画〜デザイン・製作〜販売しています。 <出品ゲーム> 『どうぶつカードバトル』:どうぶつのカードを出し合って、場のりんご・さかなを取り合う白熱読み合いゲーム!(←化粧箱new!!) 『ゆうしゃBがあらわれた ゆうしゃCがあらわれた ゆうしゃDがあらわれた』:魔王を倒すのは誰だ!勇者同士のバトロワ! 『ラップかるた3』:誰でも簡単にラッパーになれる!オリジナルビートであなたもラッパーに! 『Re:Memoria』:小説×ボドゲの協力ゲー!プレイヤーが変わればストーリーも変わるマルチエンディングをご用意。 『From the Golden Records』:宇宙に遭難した宇宙飛行士が、自分の居場所を信号で伝える推理×パーティゲーム!

知りすぎたフリーライター/「ぜったい倍にしてかえすから」
2023/12/7 23:42
ブログ

BLUE GUILD 2023年秋出品

「ぜったい倍にしてかえすから」

 

登場する5人のキャラクターのうちの1人

フリーライターの秘密について

公開します。

※前回の「笑えないお笑い芸人」から見ていただくとよりおもしろいです

事前予約はこちらから

↓↓

 

 

〇〇駅の前で誰かを待っているひとりの女を眺めている。鯖金組のオンナと言われているその女は、少しだけ顔が売れている。むしろ、顔が売れすぎている。知らない人間は絶対に知らないが、裏に多少詳しい人間なら、見たことのある顔だろう。

 そんな女が、見た限りひとりで駅前で立っている。ボディガードらしきチンピラも見えない。そんな女を眺めながら、おれは喫煙所で煙草をふかす。肺にはいれない。いれるとむせる。

 たまたまこのあたりの店に取材に来ていた。ラーメン屋の記事を書かなきゃいけない仕事だったのに、そのラーメン屋が忙しすぎて取材を断られた。日常的にアポを取るなんて真似はしない。突撃して話を聞いて、そうして素直な言葉が出てくる。

 おれの取材姿勢はそうやって培われてきた。

 

 最初は探偵会社で働いていた。身辺調査のための張り込みは、そのころの経験が生きている。文章を書くのが多少上手かったというのと、その経験のおかげで、今はなんとなくフリーライターとして生きていけている。たまには当たりの記事を書いて、懐が潤うこともある。それでもおれは宵越しの金は持たない。使い切って、そうしてまたしても記事を書くのだ。

その方が、“生きている”という実感が持てる。そういう実感がおれを動かすのだ。

 

その実感を味わいたくて、最近は危ない仕事も始めた。その一つが鯖金組のスクープを上げることだ。スポーツ選手との密会や、芸能人との㊙の取引。そういうものを警察よりも先に見つけ出して、そして売り込む。

警察のやつらに何回か記事の種を売りつけて、生臭刑事から金をもらった。その金額がかなり美味しいため、最近はもっぱら鯖金組を見ている。ラーメン屋の仕事は小遣い稼ぎだ。だからこそ、今日みたいに取材キャンセルになっても困りはしない。

 

そんな中、鯖金組のオンナを見つけた。これは、単純な偶然だった。日頃の行いが良いおかげだな、なんて考えつつ、煙草をふかす。あの女は誰を待っているのか。不機嫌そうに待っているその姿は、想い人ではなさそうだった。

終電もなくなりそうなそんな時間帯、女を見つけたおれは帰らないつもりだが、オフィス街ゆえの人込みが視界を遮る。数少ない居酒屋から虫のように出てくる人込みを避けつつ、視界の端で女を捉えていたら、待ち合わせの相手が来た。

 

その姿を見て、俺は驚いた。

どこかで見たことのある、サラリーマンだった。

 

あれはいつ頃だっただろうか。高校の時だっただろうか。同じクラスになった記憶がある。修学旅行では同じ班だった。いい大学に行ったという話まではなんとなく知っているが、どんな奴だったかがあまり思い出せない。

そんなことよりも、そのサラリーマンが女の待ち人だったことに驚いた。

なぜ、高校の同級生と鯖金組のオンナが……?

 

二人は仲良さそうに駅の中に入っていった。おれはその二人の姿を見失わないように、後ろからついていく。改札を通る二人の視界に入らないように、自分もICカードをかざす。ピーっと赤く光り、残高不足と表示されていた。

 やべぇ!と焦りながら、券売機で1000円だけチャージして、急いで改札を通る。終電の発車を知らせるベルが鳴っている。ホームまでの階段の最上段につまづきながら、なんとか勢いで電車に飛び込む。

 

周りの人間が、おれを見下している。

 なんとなく、高校時代を思い出した。

 

 ゆっくりと立ち上がり、周りを見渡すと、二人の姿は無かった。自分が乗ったのが第1車両だったので、ゆっくりと歩きながら二人の姿を探す。鯖金組は△△駅らへんがシマだ。どうせ降りるならそこだろう。

 それにしても、またしても頭の中で疑問が浮かぶ。なぜあの同級生があの女と一緒にいるのか。組に所属するような人間ではなかった記憶があるが……働いていてあの駅を使うということは証券会社か商社だろう。いい大学に行ったっていう話からその2つのどちらかの可能性が高い。証券会社であれば、組のマネーロンダリング関連で付き合いがある可能性が高い。商社だとしても、商材があれば組と何かしらの関わりがあるかもしれない。

 おれは、心の中で舌なめずりをした。

 

 第4車両に入った瞬間、次の車両とのつなぎ目あたりに二人が居るのを確認した。その瞬間、車内アナウンスの『次は~△△駅~△△駅~』という声が車内に響く。仲良さそうにしていた二人が、少しだけ身体を出口に向けた。

 想像通りだ。

 

 △△駅で降りた二人は、バーに向かった。この店も、鯖金組がケツ持ちだ。知っている人間は、知っている。そこに入っていく、二人の姿を見ながら店の出口が見える場所で、おれは二人が出てくるのを待っていた。

 

「オイ、おっさん」

 と、突然、声を掛けられる。声の方を見ると、明らかなチンピラがいた。

「あ、はい。すみません。すぐいなくなります。ごめんなさい」と早口でまくしたてて、早足でその場を去る。

 おそらく鯖金組のチンピラだった。おれはそのあたりの鼻が利く。やはり、あの女の周りには誰かしらが待機している。

 

「おっさん」

 チンピラが追ってくる。

「な、なんですか」

 早足で逃げる。怖くて顔が見えない。

「おっさん、俺ダッテ」

 よく聞いたら、聞きなじみのある声だった。それを思い出して、立ち止まる。

「なんで逃げんダヨ、おっさん」

「なんだ、君か」

「おもっくそビビってたッショ」

「いや? 別に? そんなことないが?」

「嘘つけヨ」

 

 このチンピラは、鯖金組の傘の中にある三次団体の中の一人だった。確か金貸しの類だ。組関係のことは何も教えてくれないが、ラーメン屋の取材を断られたときに集金に来ていて、やけ食いしていたら仲良くなった。その後も美味しいラーメン屋の情報だけはくれる。

「ケツ持ちしてると美味しいラーメン屋には困らねぇよ」と笑う彼は、あまり組の人間らしくない、身なりは怖いだけの面白い青年だった。

「おっさん、あんまこの辺ウロウロしない方がいいヨ」

「おっさんって言うのやめないか」

「おっさんいくつ?」

「まだ三十路だ」

「おっさんジャン」

「……」

「あ、やっべ。これから仕事ダ」

「そうなのか。大変だな。こんな時間から」

「おっさんもデショ?」

 チンピラがポケットから取り出したスマホの画面を眺める。時折見せるこの表情は、おれがこういう組関係を追っていてもなかなか見られない。

 仕事に向かう瞬間の顔。一瞬にして、好青年から覚悟を決めた若者の眼になる。

 ずっと立ち止まっているチンピラが、口を開く。

「おっさん、言ったからネ?」

 眼を見た瞬間、ゾワっと、鳥肌が全身に走った。

「あ、あぁ……気を付ける」

「じゃあネ」と言って、チンピラはホテル街の方へ歩いて行った。

 

 

 とはいえ、今から家に帰る足も無い。少しの時間、うろうろしていたらバーの扉が開いた。

 同級生と女が寄り添って出てくる。同級生はどこか虚ろな雰囲気で女の後ろをついていく。その姿を見ていて、何かが起きると予感した。

 おれの中のジャーナリスト精神が騒いだ。あの女をつけまわしていることが他の護衛チンピラ組にバレないように動く。尾行に適した日中ではないが、それでもおれに経験がある。

 しばらく着いて行くと、二人は古びたホテルに入っていった。

 頭の中で記事が出来上がっていく。

 

『大手社員/商社社員、指定暴力団関係者と夜の密会』

 

 うんうん、悪くない。多分売れる。めちゃくちゃ売れる。その自信が湧いてきた。勝手に売れていく様子が浮かんでくる。ワイドショーでも取り上げられ、記事の作成者であるおれは大金持ちになれる。汚い金でも構わない。昔より状況は確実に良くなっている。

 

 妄想を膨らませながら、ホテルの入口を見張っていたら、同級生が一人で出てきた。入っていくのと同じような虚ろな顔をしている。もしかして……ともっとやばい妄想が浮かんでは消える。そう思えるほど、同級生の足取りはふらついていて、視線も虚ろなように見えた。

 しかしながら、想像よりも短い時間で出てきたことが不思議だった。大通りに向かっていく同級生の背中を眺める。〇〇駅で見た姿よりも幾分か小さく見える。

 

「ネェ、おっさん」

 

 背中で何かがゾワゾワと走った。

 

「何してんノ?」

 

 振り返り際、チンピラの眼が、一瞬見えた。

 次の瞬間、頭に衝撃が走った。

 

 

 目を覚ましたら、古臭いホテルの部屋にいた。椅子にしばりつけられていることが、両腕の不自由さから伝わる。

 

「あ、起きタ?」

 チンピラがスマホから目を離して、こちらを見た。

「……なんだこれは」

「言ったデショ。『あんまこの辺ウロウロしない方がいい』ッテ」

 殴られた頭が痛む。

「姐さんからの命令ダカラ。おっさんの尾行、バレバレだってヨ。電車から分かってたッテ。せっかく危ないって教えてあげたノニ。顔なじみダカラ」

「……そうか」

「……ネェ、おっさん。おっさんって□□あたり出身って言ってたッケ?」

「……あぁ、そうだが」

「□□高校?」

「……?」

 質問の意図が読めない。もしかして、あの同級生との関係性を探られているのだろうか。組の関係者であるあの同級生と、少しでも関係があるから、と。

「……違う」

 

「嘘つけヨ」

 

 そう言って、チンピラは笑った。

 

 

 結果、おれは解放された。免許証から何から、手持ちの身分証明書を全てチンピラに渡すことを条件に。

 そして、借用書にサインをさせられた。借金が必要なほど困った生活をしていないのに。

 

「明日から、次の日曜日マデ、こいつらの尾行をしてほしいンダ。もちろん、やるよネ」と、チンピラはおれに数人の顔写真を見せた。

 

 一人はおそらくタクシーの運転手だ。恰好から分かる。

一人は楽器を背負っている。

 一人は写真に赤丸がつけられている。舞台でセンターマイク1本。左側の男に〇がついているお笑い芸人だろうか。

 

「来週の日曜日には大きなイベントをやるヨ。おっさんにも、それに参加してモラウ」

 

 おれはチンピラが、分からなくなった。

 

 

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