数寄ゲームズ @horiken0
2014年秋からゲームマーケットに出展参加しています。
- 「ヨーロッパディバイデッド」ってこんなゲーム
- 2020/11/13 9:18
◆ウォーとユーロのいいとこ取り! 非対称の2人用デッキ構築ゲーム
ゲームマーケット秋で先行販売する「ヨーロッパディバイデッド」は2人用のデッキ構築ゲーム。EUとロシア、2つの陣営に分かれて両陣営の間に横たわる中央・東ヨーロッパとコーカサスの支配を巡って争います。
最も特徴的なポイントは、EU、ロシアの両陣営が全く異なるデッキを持ち、それぞれの立ち回りも異なる点でしょうか。初期デッキからして、EU側は13枚、ロシア側は7枚とカード枚数が違いますし、カードは全てユニークで個別の効果も異なります。
「経済的に恵まれる国を多く有するものの、デッキが太いため強力なカードの再利用が難しい」EUと、「常に資金不足に悩まされるもののデッキの回転が早く戦力の集中に長ける」ロシアという性格の違いもあります。このような初期条件から戦い方まで異なる非対称の2人用ゲームは、ウォーゲームの得意とする分野と言えましょう。
◆「ヨーロッパディバイデッド」はウォーゲームなの?
と言っても、多くのボードゲームファンにとってウォーゲームは縁遠いもので、ウォーゲームと聞くだけでどこか身構えてしまうところがあるかもしれません。「ヨーロッパの紛争と言ってもイメージが沸かないし……」という方もいるでしょう。
しかし、安心してください! このゲームはテーマこそウォーではありますが、ゲームデザインはびっくりするほどユーロ味の濃い内容で、ウォーゲームを知らない人も違和感なく遊べる内容です。ぼく自身も正直なところ、純粋なウォーゲームを遊んだことはないんですが(一番近いところでCOINシリーズの「アンデアンアビス」かな)、相当に遊びやすい内容で面食らいました。
特筆すべき点はゲーム全体の見通しの良さです。戦闘はダイスを振って勝敗を決めるようなランダム性はなく、互いの軍隊が対消滅するタイプで、戦闘が起きたらどっちが勝つかは明白です。
運要素は3種のカードのドローに集約されていますが、「あのカードが引けなかったから負けた!」というような理不尽さは極力薄められていて、適度な運要素をもたらすためのカード引きという塩梅です。下手すると2人用アブストラクトになってしまいそうなドライさをやんわりと運要素でウェットに包んでいて、デベロップが行き届いている感じ。この温度感、よいです!
その上で、ヨーロッパの支配権を巡るハードなテーマを当事者目線で堪能できるのがウォーゲーム由来の魅力でもあって、先日まで戦争してたアルメニアとアゼルバイジャンの仲の悪さがゲーム上で反映されているのを見てニヤニヤしたりできるんですね。
システムはユーロ、テーマはウォーという異種混交、「最近のユーロはどれも同じに見えるなー」という人には、異文化の香り漂うこの接近は極めて刺激的に感じられると思いますよ!
◆2ラウンドごとの決算。ヘッドラインカードのシステムにシビれる!
このゲームにはあまりユーロでは見たことのないメカニクスが盛り込まれているのですが、特にぼくが一番感銘を覚えたのが「ヘッドラインカード」を巡る駆け引きです。
ヘッドラインカードは得点とその獲得条件が記されたカード群で、例えば「決算時、バルト三国でNATOの影響力がロシアよりも強く、NATO軍が駐留していればEUプレイヤーは2点を得る」的なことが書かれています。
ヘッドラインカードにはEUの得点源とロシアの得点源の2種があるので、自陣営の得点条件を満たしつつ敵陣営の妨害をするのが基本の動き…… 2ラウンドごとに決算が行われるのでプレイヤーにとっての短期目標となるワケです。
1回の決算では2枚のヘッドラインカードが決算されるので、どちらの目標を達成するか、あるいは妨害するかで頭を悩ませることになります。自分の目標を達成しつつ、相手の目標を妨害できればもちろん最高です、が、これはなかなか難しい!
で、ここからが本題なんですが、このヘッドラインカード、完全にランダムで選ばれるのではなく、プレイヤーが3枚の手札から1枚を選んでプレイします(このカードは4ラウンド後に決算)。なのでゲーム展開のコントロールがかなり効くんです。
しかも! EUとロシアはそれぞれが個別の山札を持つワケではなく、両者の得点カードを混ぜて一つの山札にして、そこから両者がドローするワケです。
するとどうなるか…… EU陣営なのに手札が真っ赤に染まってしまうこともあったりして、プレイしたくないロシア得点カードを泣く泣くプレイするハメになったりなるのです。
で、対するロシアはこれで有利になるかと言えば、むしろ想定していなかった新しい目標に頭を抱えることになったりもして。相手が達成しにくいヘッドラインカードを嫌がらせ気味にプレイするのが基本なので、予定外のヘッドラインカードをプレイされると心底困るんですよね。
このようにヘッドラインカードに纏わるルールは運用はシンプルながらそこから生まれる展開の幅広さと言ったら驚くほどで、いやあ、スジのいいルールだなあと感心します。
これ、ユーロに取り入れても面白いルールだと思うんですよね。3人以上だとコントロールが効かなすぎるので、2人プレイだからこそ生きる仕組みかもしれせんが。ちょっと「スルージエイジス」のイベントカードの扱いにも似てるかもしれません。
◆アクションはたったの2回。気合の入るイニシアチブ勝負
各ラウンドでは4枚の手札からこのラウンドで使用する2枚のカードを秘密裏に選び、同時公開します。この時、2枚のカードに記されたイニシアチブ値を足し、合計が大きい陣営が先にアクションを行います。
基本的には相手の動きを見てから動きたいので後手が有利なのですが、イニシアチブ値の低いカード=弱いカードなので、行動順とカード効果でどう折り合いをつけるかは思案のしどころです。
アクションは
・影響力の配置
・影響力の増加
・資金の獲得
・軍隊の設立
・軍隊の移動
・特殊アクション
の6種類があり、カードによって行えるアクションが指定されています。アクションそのものは極めてシンプル……というか細切れすぎてびっくりするほど。
1ラウンドでは2回のアクションを行うのですが、フリーアクション盛りだくさんのモダンユーロに慣れてる身だとメチャクチャ簡素に感じられます。1手使って軍隊1個作って、1手使って軍隊1個動かしたらもうラウンド終わっちゃう…… 「纏めて軍隊配置」とか「纏めて軍隊移動」とかねえから!
なんかもう慢性的に手数が足りない作りになっています。ちなみにロシアはお金も足りない。
その上で2ラウンドごとにヘッドラインカードを達成しなければならないのですから、選択と集中が重要です。やるべきことは明確なのに悩ましい……!
◆デッキ構築の華、新カードの獲得が……?
おまけに紛争地域に影響力を及ぼすと得られる新しいカードは基本的に……弱い。カードはそれぞれが国や地域を示しているのですが、初期デッキのドイツとかフランスは超リッチで使い手も広いのに比べて、紛争地域は小国ばっかりなので経済力もなければ軍隊も作れないという…… 世知辛い……!
さらにおまけに紛争地域カードの中にはプレイすると敵陣営に利益をもたらすReaction/対応カードなんてものまであって、紛争地域に迂闊に介入すると身動きが取れなくなります。この辺もまたリアル。
ちなみにこのゲーム、基本的にデッキ圧縮の手段はありません! なのでどの紛争地域に肩入れするかは計画的に……
ゲームを通してデッキをカスタマイズする手段は正直少ないので、一般的な「デッキ構築ゲーム」のイメージとはちょっと違った感覚です。デッキカスタマイズの自由度に楽しさがあるというよりは、ランダマイザとしてデッキを使っている、くらいの感覚で、デッキ構築自体は付随するサブ要素といった趣です。
◆ユーロ好きにこそ遊んで欲しい、システム重視の重厚ゲーム
ということで、ここまで色々と特徴を述べてきたんですが、正直なところ見どころがかなり多いゲームです。触ってみて想像以上の面白さでした。
見通しがよく、適度な運要素があり、地味かと思いきやスパイスも効いていて(説明を省いたんですが「優位カード」というのが超スパイス効いてるんです)、2人用ゲームとしての完成度がまず高い。それでいて本格的な2人用ウォーと比べると手頃なルール量と時間で遊ぶことができるのもいいところ。
ハードなテーマで敬遠する人も少なくないとは思うんですが、ゲーム自体が面白く、しかもテーマの知識は必要ない(知ってたらより楽しめるけど知らなくてもゲームとして楽しい)ので、軽々な気持ちで遊んでみればいいと思います。
その上で、ユーロとは異なる文脈から成り立つこのシステムはユーロ好きからすると異国感、新鮮味があり、一種オリエンタリズムな味わいとでも言いましょうか、和洋折衷的な接合の風合いが刺激的です。
ゲームマーケットで販売するからというワケではないんですが、ゲームデザインのヒントを求めている人、ユーロに浸かりすぎて新しい境地を探している人にとって、ウォーとユーロの川で作られた三角州は宝の宝庫かもしれませんよ。
また、今回販売する和訳付き英語版では、数々のゲーム翻訳を手掛ける永峯さんに翻訳をお願いしました。テーマを深堀りしたい人のためにフレーバーの翻訳も完備したので、ぜひ読んで貰えればと思います(なお、このフレーバー、ゲーム中に読まれることはありませんでした)。
「ヨーロッパディバイデッド」はゲームマーケット秋にてイベント価格6500円で先行販売します。その後、数寄ゲームズ通販サイトでも販売しますがこちらは価格を調整中です。よろしくお願いします。
※ ちなみに1点エラッタがあります。これは元のルールブックからのエラッタなんですが、P20のインデックス、「ブドウ革命」は緑の背景が正しいです。カードとインデックスで相違がありますが、カードの表記が正しいです。