暫定機関

同人TRPG制作サークル「暫定機関」です。 オリジナルシステム『蒸気銃劇RPG スチームスリンガー』『デモニックアクションRPG デモンズ23』『異能×スポーツTRPG Spiral Spinner's』物理書籍版の頒布を予定しています。

暫定機関職員の手記 その2
2020/2/26 11:45
ブログ

〇我々と「スチームパンク」

ある深夜だった。

「TRPGってスチームパンク少ないよな」

語りあかす話題も尽き始めたころ、我々の会話はそういう方向へと移り変わった。

念のために申し添えておくと、これは「スチームパンクTRPGがない」と言っているわけでは決してない。最近だと六畳間幻想空間様の『歯車の塔のスカイノーツ』は同人ながら大変な人気だし(僕も好きなシステムだ)、遡れば『ギア・アンティーク』に辿り着く。

だが、『ギア・アンティーク』は今や入手困難だし、『スカイノーツ』は率直に言うと僕が「スチームパンク」に求めているものたりえなかった。

ともかく、その時の相手であるramもスチームパンクに一家言持っていたので、お互いにスチームパンク論だとか好きな作品とかの話をしたのだった。当時はちょうど『プリンセス・プリンシパル』の放映中だったので、当然その話にもなった。ただ実を言うと、「プリプリみたいなTRPGがしたい」と言ったかは記憶にない。

 

数日後。既にramが書いた通り、彼はいきなり自作のスチームパンクシステム──すなわち『スチームスリンガー』を完成させ、持ってきた。その時点で、このシステムはきちんと遊ぶのに必要な要素を備え、リリースまで大きく変わっていない。

「コイツを放っておいてはいけない」

僕は驚愕すると同時にこう思った。よりにもよってスチームパンクである。面白く、そして求めるスチームパンク要素を持ったこれを「気まぐれに作ったもの」で終わらせてなるものか。その時も今も、僕の中ではそういう気持ちが大きい。

そうして妙な使命感に燃えながら、僕はramに提案した。

「これ、ちゃんと調整してルールブックにしないか」

「やるか」

「やろう」

そういうことになった。

 

こうして半ば強引に作ることにさせて、「せっかく作ったしどこかで売ってみないか」と勢いでさらに吹っ掛けて今に至る。

僕が関わったのは世界設定についてだ。ゲーム部分はramが本当に1人でやってしまったのでそれしかなかったともいう。

「『ディファレンス・エンジン』はスチームパンクではない」

スチームパンクの代表作と言われる『ディファレンス・エンジン』についての、伊藤計劃の言葉だ。僕の最も好きな言葉の1つでもある。

『ディファレンス・エンジン』はスチームパンクではない! とんでもない言葉だが、僕は理に適っていると思っている。曰く、本来のスチームパンクはノスタルジーを伴うファンタジー冒険活劇寄りのもので、現代科学に立脚した技術革新・情報革命が主題となっている『ディファレンス・エンジン』はそうではない。

そういう定義でいくと、ファンタジー冒険活劇をやるわけではない(あと正直ノスタルジーとかもあんまりない)この作品はサイバーパンクになってしまう。おい、スチームパンクにこだわってるんじゃなかったのかよ。

まあ、この辺りに関してはあまり返す言葉がない。僕のスチームパンクも概ね『ディファレンス・エンジン』からと言ってよく、つまるところ僕のスチームパンク観もそのフォロワーだ。

サイバーパンク的観点から見て一風変わっている、と言えそうなのが「通信技術の断絶」だ。ramの初期設定から存在し、ゲーム部分にも深く影響を与えているこの設定は、『スチスリ』世界を「単に舞台がヴィクトリア朝ロンドンになっただけの近未来SFの焼き増し」という段階から引き上げてくれている。遠未来じみた巨大構造物と現代相当の蒸気機械がありながら、連絡手段は大真面目に伝書鳩、というちぐはぐさは、この作品の特殊さの1つと言っていいだろう。もっとも、『ディファレンス・エンジン』も通信技術といえば気送管だったはずなので、その視点でいえば差はないかもな、とも書いていて思った。

 

そのほか、設定を考えるうえで意識したのは「技術革新がいかに世界に影響を与えるか」だった。

もう1つ、伊藤計劃で僕が好きなのが、「テクノロジーが人間をどう変えていくか、という問いを内包したSFである」というサイバーパンクの定義だ。このエッセンスも、『スチスリ』に加えているつもりだ。

何が言いたいかというと、僕はファッションジャンルとしてのスチームパンクは正直あまり好みではない。だって蒸気文明が発達したからって服に歯車とかゴテゴテつくわけないだろ。どういう必要性があってそうなっているんだよ。……そういう、面倒なことを考える質だ。

一方で、建物などは大きく変化していいと考えた。これも、「蒸気が電気と反応して誘爆する」という設定が、ram考案の初期設定の時点で存在したからだ。この作品の蒸気機関は熱源の関係である程度小型化しても比較的矛盾しにくいとはいえ、蒸気機関とは、根本的に構造上大きくなりがちだ。なので、SFらしい外連味は小物ではなく大きなハコモノで出していくべきだろう、と思った。

「地下積層都市」という巨大な虚構の中、人々の生活そのものは、時代を先取りはすれど劇的に変化するわけではない、という塩梅は、なかなか上手くやれたのではないかと思う。

この辺りは、マスクマン氏に表紙イラストを描いて頂いた際にも反映して頂いている。エージェント2人の衣服がいわゆるスチームパンク風でないのはこういう事情があったりしたのだ。

 

僕は作り手の語る制作の意図を聞くのがとても好きだ。そういうわけで、全てではないが、この機会にこうして書いてみた。まあ、需要のほどはかなり怪しいが、僕自身は書いてみてすっきりした。

何分こういうことは初めてなので、この作品がどう受け取られているのかは今でも不安だ。

戦闘の難易度が高すぎるのではないか、という声も頂いた。これに関しては、事実一部のサンプルシナリオの戦闘難易度調整を間違えていることが後に発覚した。物理版発行時には、全体的にサンプルシナリオの難易度が見直されているのでご容赦されたい。ただ、先にramが書いてある通り、ある程度難易度が高くなるのは想定している。

また、TRPGの戦闘でよく取り沙汰される「アルファ・ストライク問題」についても、このゲームは対策をしているとは言い難い。というか、我々の想定がアルファ・ストライク推奨とすら言える。これに関しては、そういう意図の下制作した、としか言えない。嫌いな方は一定数いるとは思う。

世界設定を面白いと思ってもらえたかどうかも当然とても気になる。もしもユニークだと思って頂けているなら、それだけこの文章の意味もあってくれるだろう。

お褒めの言葉を頂けたときにはいつも飛び上がって喜んでいる。比喩ではない。巷でよく言われる「感想は作り手の命を繋ぐ」というのは本当なんだなと思うことしきりだ。

ルールブックを買ってくださった皆様、実際に遊んでくださった皆様、本当にありがとうございます。至らないところは多いと思いますが、今後も我々にご期待頂けると幸いです。

(猫渦篇)